2018.2
No.
87
特 集
渋くて面白い
模型実験の世界
04-07
受賞/行事報告/新スタッフ紹介/人事異動
10-11
社会を支える鉄鋼メーカーにおける土木技術者
菅野 浩樹12 卒業生から
地震や津波に随伴する火災の性状とリスクの
制御に関する研究
西野 智研08 若手研究者から
所長メッセージ
2018年を迎えて
京都大学防災研究所長
中川 一
京都大学防災研究所の所長を拝命して初めての新年 を迎えることとなりました。改めまして本年もよろしくお願 いいたします。
昨 年2017年4月に、 所 長 就 任にあたり抱 負をいく つ か 掲 げ まし た(http://www.dpri.kyoto-u.ac.jp/ message/)。それらの取り組み状況をご紹介したいと思 います。
抱負の1つが防災研究所独自の若手研究者への支援 です。今回の支援は京都大学の第3期中期目標・中期 計画達成に貢献すべく、防災研究所が選択した評価指 標に関連した内容、すなわち若手研究者の海外派遣経 費と学術論文出版等経費への支援です。助成のタイミ
ングや何らかの制約で申請が難しくて応募しにくい助成 事業の隙間を埋める融通のきく助成となるように心掛けま した。多数の応募がありましたが、精査の結果、5件の 海外派遣支援(3名の研究員と2名の博士後期課程の 学生)と12件の論文出版支援(内4件は論文採択が決 まれば支援)を採択しました。次のステップに繋がる多く
の成果が出ることを期待しています。できれば来年度も 中期目標・中期計画の進捗に繋がる支援をしていきたい と思っています。
つぎに、広報・社会連携活動の強化です。その一 例として前執行部の取り組みを引き継ぎ、総長裁量経 費の支援を得て防災研究所連携研究棟に設置した防 災ミュージアムの充実・強化と、阿武山観 測所および宇治川オープンラボラトリーに ミュージアム機能の役割を持ってもらい、こ れらをネットワーク化して広報・社会連携活 動を強化しようとするものです。牧紀男広 報国際担当副所長のもと、随分強化できた ところもありますが、これからといったところ もあります。今後は防災研究所が独自の取 り組みとして自律的に実施していかなくては
なりません。
2017年九州北部豪雨災害調査中間報告会
防災研究所には15の観測所・実験所等があり、ここ で得られた各種データを用いて、ほぼあらゆる自然災害 に係る研究や教育を行い、防災研究所にしかないデー タや成果が世界に発信されています。これらの観測デー タや研究データを一元的に管理運営して利活用し、国 内外の研究機関と共同研究を実施することが防災研究 所の責務でもあります。その意味で、人的資源や研究 資源に係るデータベースの構築が必須でありますが、い まだ世に誇れるようなシステムとして機能しているとは言 えません。これを実現するために澁谷拓郎研究・教育 担当副所長のもと、平成30年度に概算要求しましたが、 残念ながら採択されませんでした。平成31年度には要 求書をブラッシュアップして捲土重来を期
す予定です。これと並行して、研究・教 育委員会や自然災害研究協議会などでも データベース構築の実現に向けて検討して いるところです。あと1年の所長としての任 期中にできるだけ前進したいと思っていま す。
そして、将来計画については、堀智晴 将来計画検討担当副所長のリーダーシップ のもと、将来計画検討委員会で改組、定
員管理、教員構成、とくに若手教員増への対応など、 多くの課題に取り組んでおり、あと1年で目に見える形が できればと思っています。
また、文化交流スペースの設置、防災研究所職員組 合会議室の設置など、所員の皆様のご協力のお陰で懸 案事項が一つ一つ解決されつつあります。一方、昨年は、 不正経理による助教の懲戒免職や研究不正の疑い等、 研究倫理に係る事案が発生しました。二度とこのような ことが有ってはなりません。研究室等では情報を共有し、 不正を未然に防ぐことを心がけてください。
本年も引き続き、皆様におかれましてはご協力とご指 導のほどよろしくお願いいたします。
本特集では災害に関する模型実験を取り上げます。「実験」は、科学研究の最も基本的なアプローチです。 取り扱う自然現象や構造物のスケールが大きくなりがちな災害研究では、いかに縮尺を決め、着目する現象 の骨格を模擬するかが醍醐味でしょう。精巧なミニチュア模型を使う匠の実験から、素人目には何を模して いるかも分からない渋めの実験まで、防災研究所には様々な模型実験の世界が広がっています。今回は、4 名の研究者がそれぞれの研究と模型実験を紹介します。
暮らしの中に隠れたさまざまな美を紹介する……という のは某テレビ局の名番組であるが、今回は模型実験を 鑑賞するための「ツボ」を紹介したい。
模型実験は工学や理学の様々な分野で理論の検証 や現象の解明に用いられてきた。古今東西、多くの発 見や発明では必ずと言ってよいほど有名な模型実験が あった。光の回析や波の伝達など、高校や大学の物理 学実験は模型に込められた創意工夫を感じさせてくれ る。コンピューターを用いた数値解析や仮想空間が幅を 利かせる研究や実務の最先端においても、しぶとくその
存在感を放っている。
なぜ模型実験なのか? それはリアリティの追求に帰 結する。本物の材料を使うリアリティ、物理現象の支配 方程式を満足するリアリティ、肌で感じて改善点を探るリ アリティ、実験する人ごとに馳せる思いはさまざまだ。
私の専門分野である建築学では、模型というと建築 模型を指すことが多い。展示用の建築模型はプレゼン テーションを目的としているが、設計者の思考をたどる手
掛かりにもなる。例えば、図1は研究室の学生が提供し
てくれた設計課題の模型である。現実空間とはことなる が、法則性をもったユニットを組み合わせて豊かな空間 構成を作り上げ、閃いた構想に磨きをかける思考実験の 場となっている。
また、模型と呼ぶには大きすぎる規模での実験は大学 ならではのものだろう。建物の構造性能を評価する分野 では、地震などの外力に対する挙動を把握するために、
図2のように非常に大きな骨組模型を製作する。予算や
スペースを考慮しつつ縮尺を決めるが、実際の建物の 挙動をリアルに再現することが目的である場合、元の建 物と同じ材料を使用することが多く、手に入る部材の寸 法から縮尺の下限が決まってくる。目的によるが相場とし ては、鉄骨模型は実物の3分の1、鉄筋コンクリート模型
美の壺:模型実験
地震防災研究部門 倉田 真宏
渋くて面白い
模型実験の世界
特 集
1
気象・水文 気象・水象災害研究部門 石川 裕彦 は2分の1、といったところである。地震の揺れを再現する振動台(図2)などを用いた実
験で特に気を使うのが相似則である。縮尺を縦・横・高 さで等しくすると、建物の質量は縮尺の3乗で小さくなる。 しかしながら、部材の断面積は縮尺の2乗に比例するの で、作用する応力をオリジナルと一定にして破壊性状を 観察したい場合は、質量も縮尺の2乗で小さくする、ある いは重力加速度を大きくする必要がある。このゆがみを 解消するために振動台では質量を追加する(遠心力を 使ってみかけの重力加速度を大きくする装置もある)が、 こんどは模型に作用する水平力が変わってしまうので、 縮尺の平方根分だけ時間を短くして地震動の水平加速 度を調整する。具体的な例としては、縮尺3分の1の模 型に対しては60秒間の地震動を34.6秒間で入力する。
仮定やゆがみは必ず存在するが、模型実験におけ るリアリティの追求は創意工夫を伴って非常に美しいと
思う。 図2 鋼骨組模型の震動台実験(防災研究所)
「風洞*って何のための装置なのですか?」とよく
聞かれます。「建物に加わる風力や風圧を『測る』た めの装置です」と答えます。そう答えると、「でも、 風洞には実物の建物は大き過ぎて入りませんよね? なのに、なぜ実際の建物に加わる風力や風圧がわかる のですか?」という鋭い質問が返ってくることがあり ます。実は、風洞の地下には秘密の巨大空間があって、 そこに実物の建物を作って夜な夜な実験を……という のは冗談で、縮尺模型による風洞実験を行えば実物の 建物に作用する風力や風圧がわかると信じる根拠があ ります。そこで、本稿ではその根拠を解説したいと思 います。
風洞はその名のとおり、風が流れる筒です(図1)。
大きさはまちまちですが、防災研究所が所有している風 洞は全長が50m、測定部の断面は幅2.5m×高さ2.0mで
す。図2はターンテーブルと呼ばれる回転する円形の台
の上に設置された建物模型を後流側から見たものです。 この写真に写っているのはフィリピン・レイテ島東岸の住
宅模型で、その縮尺率(正確には幾何学的縮尺率)
は25分の1です。余談ですが、建物模型を回転する台 の上に置くのは、いろんな方向から吹いてくる風に対す る風力や風圧を測るための工夫です。風洞では、風速 は調節できますが風向きは変えられないので、代わりに 建物模型の向きを変えて風をあて、作用する風圧や風 力を圧力センサーや空力天秤と呼ばれる計測装置を使っ て測定します。
さて、いよいよ本題です。縮尺模型が実際の現象を 模擬するためには、現象に関わる物理量(長さ、力、 速さなど)の比が縮尺模型と実際の現象とで一致して いることが必要です。逆に、一致していれば縮尺模型
なぜ風洞実験で実際の建物に加わる風圧がわかるのか?
気象水象災害研究部門 西嶋 一欽
津波再現装置とは
防災研究所附属宇治川オープンラボラトリー(京都市 伏見区)には4つの実験棟の中に、河川洪水を再現で きる水路や、地下街への浸水を体験できる階段施設、
1時間に200mmの豪雨を体験できる降雨装置などがあり
ます。これらは共同研究利用施設として活用される一方、 一般の方の見学会でも人気を集めています。津波再現 装置は、3号実験棟の中に位置し、長さ45m、幅4m、 深さ2mの大型の実験水路です。
図1に示すように、水路の一端にはピストン型の造波
は実際の現象を模擬していると考えられます。ここで、 縮尺模型と言っているのは、建物の模型だけでなく、 建物に作用する風の流れを模擬した「風の模型」も 含めた系のことです。例えば、長さに関する比が一致 するというのは、まず建物の形が模型と実物とで幾何 学的に相似であるということです。ただし、それだけで はありません。風の流れには、目には見えませんが「乱 れのスケール」と呼ばれる長さの次元を持つ量がありま す。したがって、乱れのスケールと建物の代表長さ(例 えば建物の奥行き)の比も縮尺模型と実際の現象とで 一致させる必要があります。次に、風の流れに関与す る力としては、慣性力、粘性力、重力などといった力 があり、これらの比も一致させる必要があります。例えば、 かの有名な(?)「レイノルズ数」というのは、慣性力と 粘性力の比のことです。縮尺模型と実際の現象のレイ ノルズ数を合わせる必要があるのはこういうわけです。
速さに関しては、風速があります。例えば、建物に対し て上流側の地点で任意の高さの水平風速の比を模型 と実際の現象とで一致させる必要があるということです。 くどくなりましたが、縮尺模型が実際の現象を厳密に模
擬するためにはこれらを含めたすべての物理量の比を ことごとく一致させる必要があるのです。ただし、実際 の実験ではすべての比を一致させることは困難なので、 知りたい現象に支配的な比に着目してこれらを合わせる ことになります。どの比に着目するかは過去の経験や研
究者の洞察力が頼りです。
これらの比を一致させて風洞実験を行うと実際の 現象を模擬できることはわかりましたが、ではなぜ 実物の建物に作用する風圧がわかるのでしょうか? この答えは、圧力という物理量に着目すればわかり
ます。つまり、ある基準となる位置での「速度圧」(=
風速の二乗値に空気密度をかけて2で割ったもの)
と知りたい建物の部位に作用する「風圧」を考えま す。上に述べたように支配的な比を一致させるよう
に風洞実験を行えば、「速度圧」と「風圧」の比(こ
れは「風圧係数」と呼ばれる)は縮尺模型と実際の 現象とで一致するはずです。一方、風洞実験では速 度圧と風圧を計測できるので風圧係数を算出するこ とができます。ですから、風洞実験で求まった風圧 係数に、実際の現象での風速の値(例えば台風時の 強風)に応じて求まる速度圧を乗じれば、実際の建 物に作用する風圧を求めることができるのです。風 力のほうは皆さん自身で考えてみて下さい(注意: 「速度圧」と「力」は違う物理量なので、そのまま
では比は取れません。)なお、本稿では触れません でしたが、風洞は、物体に作用する風力や風圧を測 る他、その他の空力特性(例えば、空力振動特性) を解明するためにも利用されます。
図2 ターンテーブル上に設置された建物模型
装置、循環ポンプを用いた流れ発生装置および上方の タンクから水を落下させて水面上に波を作る水塊落下装 置があり、様々な波と流れを発生させることが可能です。 ピストン型造波装置は鉛直の造波板をスクリュー状の ボールネジと呼ばれる水平な細い鉄棒に吊るし前後に動 かして波を水路内で発生させる装置です。最大で30cm 程度の高さを持つ波を作れます。
模型実験の縮尺
波や津波を水槽で再現した模型実験でまず測定する 項目は、波の高さ、波の周期、流れの速度などの実験 条件です。波が港の防波堤に当たってどのような影響を 与えるかという実験を例にしますと、ある高さを持つ波(波 高H)がどれだけの圧力(波圧p)や力(波力P)を与 えるかを調べる必要があります。防波堤によって波の高
さも変化しますので港内の波高(Hin)も必要です。波 が砕けてしまう場合は周期(T)も変化しますので、全 てを同時に測ります。実物の防波堤の高さは10m以上あ りますので、1/30~1/50の縮尺で模型を作り実験を行う 必要があります。この時に、すべてを同じ縮尺で作るの ではなく相似則を用います。波力実験の場合には一般 的に、重力によって生じる慣性力の比(フルード数)が 模型と実物で同じであるとする「フルードの相似則」を 使います。模型と実験で作用する重力は同じです。フルー ドの相似則は次のようにあらわされます。
(v²/gh)実機 = (v²/gh)模型 (1)
ここで、h:長さ(高さ)の代表値 v:速度の代表値
g:重力加速度 です。 式(1)の関係から重力加速度を消去すると、 (h模型/h実機)=(v2模型/v2実機) (2)
になります。模型縮尺は長さの縮尺を指しますので、 速さの縮尺は模型縮尺の平方根になります。そのほか の縮尺の関係を表1に示します。
模型実験の今後
数値計算技術が進歩した現在も、実験から各種の係 数を決めたり、数値モデルの妥当性を調べたりするため に模型実験の重要性は高く、精度の良い実験が求めら れています。今後も、防災研究には欠かせないツールと なって活用されるものと思います。
参考資料
自然災害科学113,Vol.34,No.1,pp.15-22(2015)「京都大学防災 研究所津波再現装置の特性について」
図1 津波再現装置における波の造波 表1 主な変量の模型縮尺
長さ 時間 速度 圧力 質量 力 縮尺 S S¹/² S¹/² S² S³ S³ 例 1/49 1/7 1/7 1/49² 1/49³ 1/49³
「遠心模型実験とは?」という質問に対する最も簡潔 な回答は、「“遠心”場での“模型実験”」、もしくは「“遠 心”力を“模型”に作用させた状態で行う“実験”」になると 思います。模型に遠心力を作用させるために用いるのが、 防災研にもある「遠心力載荷装置」(詳しくは https:// sites.google.com/site/centrifugej/ 参照)ですが、 ではなぜ遠心力が必要なのでしょうか? このような疑問
に答えるため、本稿では他の材料(鋼材やコンクリート等) とは一味違う地盤らしさに焦点をあて、遠心模型実験に
ついて説明したいと思います。
まず、遠心模型実験の主な対象は、盛土や斜面に 代表される土構造物(土や岩石を材料として構築される 構造物の総称です)や、地盤と基礎構造物(杭基礎 等)の一体モデルの挙動です。これらのサイズは数メー
トルから数十メートルと非常に大きく、原寸大で多くの実 験を行うのは現実的ではありません。そこで縮小模型を 用いるのですが、ここで問題となるのが地盤材料の「拘 束圧依存性」です。特に砂のような粒々で構成される 材料(粒状体)は、周囲から受ける圧力(これを拘束 圧と呼びます)の大小により、発揮できる強度が異なりま す(つまり、拘束圧に依存します)。一般的な地盤材料 では拘束圧が大きくなるほど強度が大きくなり、これは卒 業論文の締切が近づきプレッシャーが増すことでより頑張 ろうとする(?)学生に似ていますが、縮小模型では拘 束圧が小さく十分な強度を発揮することができません。こ れを解決するために登場するのが遠心力です。
前述のとおり、遠心力は遠心力載荷装置(一般にビー ム型とドラム型の2種類がありますが、ここでは図1,図
2に示すビーム型を対象にします)により作用させます。
装置の機構は、遊園地の回転ブランコをイメージしてくだ さい。回転ブランコの「人が乗る椅子」が縮小模型の 載るプラットホームに、「乗っている人」が縮小模型に相 当します。ものすごい勢いで装置を回すと(例えば、通 常の重力の50倍の遠心力を作用させる場合には、装置 が1秒間に約2回転します)、遠心力の増加とともにプラッ トホームが傾斜し上昇します。ここで、遠心装置の回転
軸を中心とする回転座標系で考えると、つまり 自分がプラットホーム上に立ち縮小模型と一緒 に移動していると仮定すると(当然、人間は 50Gもの遠心力には耐えられませんが……)、 遠心力の増加は(頭から足に向かう)重力 加速度の増加に対応するため、縮小模型を 用いながら原寸大と等しい拘束圧を作用させ ることが可能になります。この際、原寸大と縮 小模型の幾何学的な相似比をNとすると、一 般に通常の重力のN倍の遠心力が必要です。 このような相似則と呼ばれる模型実験を行う
際のルールについては、別途教科書等を参 考にしてもらえればと思います(遠心模型実 験のための相似則の拡張といったマニアック な研究もなされています)。
さて、遠心力を作用させることで大きな拘 束圧を実現できたわけですが、実験の対象が 圧密(粘土地盤の上に荷重が作用すること で、地盤内の間隙水がしぼり出されて土の体 積が収縮する現象です)といった静的な地盤
挙動であれば、例えば変形が落ち着くまで遠心力を作用 し続ければよいことになります。一方、地震時の地盤挙 動のような動的な現象を対象にする場合は、遠心力を作 用させた状態のまま、プラットホームに搭載された振動台
(図2)を遠隔で駆動することで加振を行います(回転
ブランコの椅子自体が横揺れするイメージです)。なお、 加振に用いる入力波形の設定の際も、前述の相似則を 考慮して振幅と時間スケールの両者を調整する必要があ ります。
以上、遠心模型実験について「そうだったのか!!」と 納得してもらえたかどうかは読者の皆さんに委ねるしかあ りませんが、地盤を対象にした模型実験では粒子の寸 法効果や、振動現象と透水現象の時間に関する相似則 の不一致等、考慮すべき問題がたくさんあります。元々 地盤内部の挙動を直接見ることはできませんが、遠心模 型実験では装置を高速で回転させるため、安全に配慮 して装置自体に蓋をして実験を行うことから、余計に間 接的な観測とならざるを得ません。ただ逆に言えば、見 えないからこそ理論や解析的手法とうまく組み合わせて 実験におけるモデル化を行う必要があるわけで、このあ たりが地盤を相手にした模型実験の醍醐味ではないかと 思います。
図1 遠心力載荷装置
若 手 研 究 者 か ら
防災研の将来を担う、准教授・助教・研究員・博士課程学生ら 若手研究者による研究を紹介します。
平成29(2017)年7月に、社会防災研究部 門都市空間安全制御研究分野の准教授に着任 し、地震や津波に随伴する火災の性状とリスクの 制御に関する研究に取り組んでいます。その中か ら、以下に挙げる2つの研究テーマについて紹介 します。
随伴火災を含めた地震リスク評価
大きな地震が都市を襲うと、建物の構造的な 被害に加えて、複数の火災が市街地で同時に発 生し、消し止めることのできない火災は、大規模 な延焼火災に発展する可能性があります。 今後 の地震発生確率が高いとされる上町断層帯地震 に着目し、文部科学省研究開発局と京都大学防 災研究所が実施した「上町断層帯における重点 的な調査観測」の成果である面
的な強震動シミュレーション波形 を活用し、①非線形地震応答解 析に基づいた建物構造被害シミュ レーション、②火災安全工学の物 理的な知見に基づいた延焼シミュ レーション、③強風時に市街地を 這うように流れる火災気流といっ た延焼火災からの熱的影響を考慮 した広域避難シミュレーション、を 一気通貫に実施することによって、 随伴火災を含めた地震リスク評価 を行い、耐震改修や感震ブレー カーの設置、消火活動、避難誘 導といった様々な対策によるリスク の軽減量を数値的に明らかにする ための研究を進めています(図1)。
津波火災の被害予測手法の 開発
東日本大震災の火災調査やそ の後の研究から、津波に随伴して 発生する新しいタイプの火災の重 要性が明らかになってきました。こ うした火災は「 津波火災 」と呼 ばれ、家屋や自動車、石油など、 津波で押し流された可燃物に火が
着いて、周辺の可燃物を巻き込みながら大規模な 延焼火災に発展します。東日本大震災では、全域 で100件を超える津波火災が発生し、最終的に約 67haを焼失させました。 特に、津波火災が津波 避難ビルに延焼し、中にいた人々が危険に曝され た事例が複数確認されており、津波火災がもたら す二次災害の危険性が明確になりました。しかし、 現在の地震被害想定では、津波火災による被害 が想定されておらず、対策が十分に検討されてい ません。津波火災の性状を物理的に予測するシミュ レーション手法を開発し、南海トラフ地震が発生し た際の津波火災による被害を数値的に明らかにす ることによって、対策の適切な実行につなげるため の研究を進めています(図2)。
西野 智研
社会防災研究部門 都市 空間安全制御研究分野 准教授
地震や津波に随伴する火災の性状とリスクの
制御に関する研究
図1 上町断層帯地震の予測強震動に基づいた地震随伴火災の延焼シミュレーション
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2017年 日 災害 田
2017年 日 災害 部
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受賞者の所属・学年等は受賞時のものです。
2017 年 10 月 2 日( )・2 日(日)に開 された京都大学 キ ン ス 開 2017 学大 き な を だ に防災研究所も しました。
前々日 2 日の 会では新たな として、 がス ドを用いて 開 の について を いました。2 日 前には、 子 ( 会 日 計 大 に つ 存 高 の長 期地震動対 )とガ ンスキ (大 市立大学 ガ スから まった私の研究生 ) をお きした 会 防災 学の最前 で する関 の ン 、同日 後には千
による 201 年 本地震によって ルデ で こった地すべり を しました。
2 日 にわたって防災研究所の 験 を った 11 の 開 で展 や 験 を うとともに、 ースにて防災研 ー ー で 中の ンガ 京大防災研 技術 日 を展 しました。また、キ ン ス 開では初めて防災ミュー を 開しました。 台風の 近により には まれなかったにもかかわら 、たくさんの 々に き、多くの 々に防災研究の現 を する ことができました。 地
2017年10月 1日に、 2 年度 ミ ー スリ ン の の 続 の を る ( ey issues for sustainable management of traditional water resources systems in Sri anka)が京都大学 キ ン スで開 されました。 は研究 と 務 を 中 に 計 上(う は17 )でした。 1日にはおう く で 会と ルデ ス ションを い、 前中には
大学 学 の 山 、スリ ン のThavakkumar IPU M なら に irushnarupan T I M による の 調 が われ、 後には日本 子大学の大 子研究 、大 都市 の高 長 、 県 本 地
事務所の 任による の事 が われました。これらの によって、スリ ン 、中 、 、日本のため の 、 状、機 と に関する 見を る機会となりました。 の後、 の 会による ルデ ス ションでは、 に 中 と 立 法 機 の 井 を ーに き、 から現 に引き がれてきた の なため の
ト ークの 性、さらには、これらが 続 に されてきた 、 後に けた と解 の観 から 見が されました。 まとめとして、 の の 要性が確 されました。
異動年月日 所属・職名 氏名 異動内容 備考
2017.11.1 巨大災害研究センター国際災害情報ネットワーク
(客員)領域・客員教授 GOLTZ,James Dennis 採用
2017.11.16 地盤災害研究部門山地災害環境研究分野・特定助教 PADILLA MORENO,Cristobal Alfonso 採用
2017.12.1 地震災害研究部門構造物震害研究分野・特任助教 佐伯 琢磨 名称付与
●人事異動 *教授・准教授・講師・助教・職員(常勤・客員・特定・特任)を掲載
前職(日本気象協会)では、雪氷予 測から降雨流出解析、火山ガス調査な ど様々な仕事を経験しましたが、中で もPM2.5や光化学オキシダントなど大 気汚染の調査・解析業務に長く従事し ていました。最近では、ドローンによる 上空の気象観測手法の開発に関わって いたこともあり、防災研でも引き続きド ローンによる大気環境計測技術の確立 に取り組んでいく所存です。これまで 観測が難しかったデータをドローンで取 得し、シミュレーションモデルの高度化 にも役立てたいと考えています。
出身地 東京都足立区
趣 味 研究では自分でドローンを操 縦する必要があるので、最近 はドローンの練習に励んでい ます。
災害をもたらすような激しい気象現 象について、雲・雨・雪などの粒子が 果たす役割を調べています。 梅雨、 台風、雪雲、夏の積乱雲などを対象に して大学院生の頃から長年観測を続け てきましたが、新しい観測機器を用い ると初めて見えてくる現象もいまだに 多く興味は尽きません。私の任期は2 月末までと終わりも近いのですが、異 動後も同様の研究を進展させていき たいと考えておりますのでよろしくお 願いいたします。
出身地 滋賀県浅井町(現長浜市)
趣 味 子育て。獅子が我が子を千尋 の谷に落とすように、深い愛 情をもって子育てしています。
I’m geologist and hydrogeologist from Chile. Throughout my career I’ve been always looking for ways to combine my interest in geology and hydrology of mountains areas and I found in the research of slope failure and rainfall related disasters a very interesting topic to fulill that. I got my doctor degree in the University of Tsukuba and since then I’ve been working in the Japanese territory disasters. Japan ofers a great opportunity for the investigation in my interest topics but also a fantastic country to live and continue developing my career, therefore I would like to extend my stay here as much as it is possible.
Birthplace Santiago, Chile
Hobby Photography, traveling. This is taken in Shinbashi dori in Gion during one snow day of the last winter (2017)
佐ささき々木 寛かんすけ介
気象・水象災害研 究部門
気象水文リスク情 報(日本気象協会) 研究分野
特定准教授
大おおひがし東 忠ただやす保
気象・水象災害研 究部門水文気象災 害研究分野 特定助教
Cristobal Alfonso PADILLA MORENO 地盤災害研究部門 山地災害環境研究 分野
特定助教
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菅野 浩樹
かんの ひろき
新日鐵住金株式会社 君津製鐵所 設備部土建技術室
工学研究科都市環境工学専攻防災技術政策研究分野/ 防災研究所社会防災研究部門防災技術政策研究分野 2007年修士課程修了
先日、京都国立近代美術館で開催されていた「ゴッホ展」を観に行く機会があ りました。ゴッホの絵と浮世絵を並べて展示するという面白い企画で、影をつけず に構図と色彩で遠近を表現する浮世絵の世界に、ゴッホは独自のデフォルメ法を見 出したそうです。
さて、今回の特集は「渋くて面白い模型実験の世界」とさせていただきました。 私自身は実験研究の専門家ではありませんが、複雑な自然・社会現象を、研究者 なりの切り口で本質に光を当てるという点では、数値モデルや理論にも通ずるところ があると感じました。防災研究の中にも、模型実験のアートな側面を垣間見ていた だければ幸いです。卒論・修論シーズンの超多忙の中で、ご寄稿いただいた先生
方に心よりお礼申し上げます。 (佐山 敬洋)
編 集 後 記
防災研で学び、各界で活躍中の卒業生を紹介します。
社会を支える鉄鋼メーカーにおける
土木技術者
私が勤める君津製鐵所は、東京 ドーム220個 分の敷 地の中に製 鉄 設備基礎やそれを覆う大きな建物の 他、線路・橋梁・道路・港湾など、 様々なインフラ設備があり、それぞ れが鉄の滞りない生産の基盤を支え ています。そのインフラ設備を企画・ 建設・維持管理・更新まで一貫し てオーナー(発注者)の立場でエ ンジニアリングを行うのが私の業務 です。学生時代、淀川流域の河川 流量解析を通じて、大雨時におけ る複数のダムの最適オペレーション の研究で培った、流域全体を見な がら各設備の運用最適化を追究す るマインドが現在の業務にも活かせ ていると感じています。
製鉄設備の維持管理は、「稼働 中の製鉄所を絶対に停止させては いけない」という使命のもと業務を 行っています。例えば鉄を生み出す
高炉は24時間稼働のため、もし高 炉を支える基礎が破損し生産が止 まれば、一日に数億円という損失が 発生する危険性と常に対峙していま す。そのため、維持管理の優先順 位づけをする判断力、稼働する設 備近傍で周囲に影響を与えない施 工を実現するための施工技術開発 力、操業や土木以外の機械や電気 の技術者などの様々な人とのコミュ ニケーション能力や折衝能力など、 幅広い能力が求められることが魅力 だと感じています。
弊社には設備エンジニア以外にも 鉄の研究開発や市場開発部門で働 く土木技術者もいて、海外案件に 数万トン単位で「鉄を織り込む」(鉄 鋼業界で鉄を拡販するの意)スケー ルの大きい仕事もあり、刺激を受け ながら仕事ができています。
海から見た君津製鐵所の設備群